きみが世界だ!

@lazysunday_mn

【舞台 オセロー】覚え書き②

 

 

 

【第二幕】

 

音楽の向こうに激しい嵐と雷の音、照明。城壁がぐるぐると動かされ、軍人らが嵐だとか叫んでいる。 

舞台はキプロス島の城壁。荘厳な石の大階段を中央、左右に構える。トルコ軍はこの嵐で敗退した、と知らせが入る。

 

上手側の段上、踏み面にキャシオーが登場。この嵐の中でオセローとはぐれたのだという。

次いで、デズデモーナ、イアーゴー、エミーリア、つけ髭のロダリーゴーが下手側階段から登場。「財宝」と表現されるように、デズデモーナの緑の衣装は煌びやか。

 

デズデモーナの手を取り、階段をエスコートするキャシオー。遠くで礼砲の音がする。

彼がエミーリアに挨拶のキスをすると、イアーゴーは「こいつの唇だけでなく舌も味わうといい。お喋りです。こっちが眠ろうとするといつだって喋る」と妻への悪態をつく。

 

デズデモーナ「まあ、ひどい。」

キャシオー「こいつはあけすけに言うんです。学者というより軍人なんです。」

 

次いでデズデモーナの手を取るキャシオーをよそに、スポットライトの中でイアーゴーが独白する。「その宮廷風の身のこなしが、おまえの命取りだ。」

 

ここでラッパの音。オセローが登場し、赤い祝福の旗が複数掲げられる。デズデモーナが駆け寄る。再会に盛り上がる夫婦に、「今は息がぴったりの演奏でも、その音楽の弦を弛めてやるさ」と再び独白。

 

オセロー「吉報だ、戦争は終わった。トルコ軍は沈没だ!おいでデズデモーナ。もう一度言おう、キプロスへようこそ!」

 

流れ出す音楽。

「オセロー万歳!オセロー様!」と人々が讃える中。オセロー 、デズデモーナ、キャシオーは花道から退場。 

 

舞台上からも一同が去る。こっちへ来い、と付け髭のロダリーゴーを呼びつけるイアーゴー。上手側の数段めに腰掛け、語りかける。

「女だって目の保養をしたいはずだ。ぴったりのやつがキャシオーのほかにいるか?いやしないね、いやしないよ!でもって、デズデモーナはもう目をつけてる」

ため息交じりで、後頭部に手を組み段に寝そべる。

 

ロダリーゴー「まさか、清らかな人だ」

イアーゴー「キャシオーの手をいじくってたのを見なかったのか?色気だよ。互いに息がかからんばかりに唇を近づけてたじゃないかロダリーゴー!あんなにいちゃついてたら、どうしたって行くところまで行くさ、畜生!だがまあ、いいか。俺の言うとおりにしてくれ。今晩、夜警に出るんだ。きっかけをつかんでキャシオーを怒らせろ。」

大騒ぎを起こしてキャシオーを首にさせようと言う。

 

ロダリーゴー「やるよ。お膳立てをしてくれるなら」

イアーゴー「任せとけ。あとで砦で会おう、じゃあな」

 

ご機嫌よう、とロダリーゴーが上手へ退場する。目をギラつかせながらイアーゴーが独白する。

 

「俺もデズデモーナに惚れてる。ただの性欲じゃない、一つは復讐を果たすためだ。なにしろ、精力絶倫のムーアは、俺の女房にまたがったことがあるらしい。そう思うと、はらわたが毒でも飲んだみたいに煮えくり返る。キャシオーの弱みを握り、ムーアをコケにしたあげく、俺に褒美を出させてやる。筋書きはここ(頭を指す)にある。」

歩いて下手へ退場。

 

 

 

 

 

客席上手側通路より、歌いながら伝令が現れる。客席一列の前で止まり、布告を広げ、声高く読み上げる。

「トルコ軍は全滅、今夜は好きに余興に耽るべし!将軍の婚礼の祝賀でもある。これより飲み放題!食べ放題!」

 

 

 

 

 

 

「「乾杯!」」

 

一転して軽快な音楽の中で、祝賀の場面。

大階段を中央に構える。上手下手と最上段に篝火。空には白い満月。

 

酒が回って陽気になる人、転げる人、転げる人を飛び越えはしゃぐ人。車椅子を滑らせる男。上裸の男。

  

一同による杯の歌。銅のマグカップ等を掲げて、身体を揃えて揺らしながら。

 

(♪)

杯~を鳴らせ~、カチーン、カチーン!  

杯~を鳴らせ~、    カチーーン!

兵士~も人の~子!

命~は一つ~~!

飲~ん~で  て~き~を (足踏み)!!

撃沈!!

  

オセロー 、デズデモーナ、キャシオーが花道から登場。その後、イアーゴーは下手から。

今晩の見張りをキャシオーに頼み、オセローは早々にデズデモーナを連れ退場する。

指笛を吹いたり「オセロー!」と讃えたりする軍人たち。

 

キャシオー「見張りに出ようか。」

イアーゴー「まだですよ副官、まだ十時にもなっておりません。将軍がこんなに早く我々を放り出したのは、デズデモーナとの愛のためですよ。」

キャシオー「すばらしいご婦人だ。」

イアーゴー「色気もむんむんです。あの目!男を唆す目ですよ。あの声を聞いたら、むしゃぶりつきたくなるじゃありませんか。お二人の新床に幸せあれ、です。さあ、ワインを大瓶で用意してあります。」

 

イアーゴーは酒に弱いキャシオーに、キプロスの男たちが乾杯したがっていると告げ、「一杯だけ」と勧める。躊躇いながらも、男たちのもとへキャシオーが歩み寄る。

そうして、はしゃぎ、騒ぎ、盃を交わす上手側。イアーゴーの独白。キャシオーに飲ませ、酔った島の奴らとロダリーゴーをきっかけに暴れさせ、騒ぎを起こしてやろうという。

 

キャシオーは大樽にもたれ掛かり、笑い、千鳥足になっていく。

 

イアーゴーが客席に背を向け、「おーい!酒を持ってこい!」と叫ぶ。

それを合図に、再び杯の歌。歌詞に合わせ、ドンドン、と足を踏み鳴らす音が揃う。

 

(続くもう一つの歌詞は新訳とやや違った。以下、おそらくの歌詞。)

 

 (♪)

スティーヴン王は偉いぞ(足踏み)

ズボン代に一クラウン

かけたりしないぞ(足踏み)

仕立て屋が不運

王には敵わない!

おまえは低い身分

贅沢はできない!

おまえは古着で(足踏み)十分!

 

イアーゴーも、声を張り上げ歌う事こそしないが、笑いながらうち数人とカチン!と乾杯をする。酔いが回るキャシオー。口に手を当て、笑いを堪えるイアーゴー。

 

度々、付け髭のロダリーゴーが、合図をくれと言うようにイアーゴーに視線・身振り手振りで訴える。が、イアーゴーは反応しない。むしろその手を振りほどいたりもする。

 

仕事に戻って見張りに出ようとするキャシオー。階段をフラフラと上がる。危なっかしくふらつくと、追いかけ、右隣についたイアーゴー。ご機嫌でその肩を組むキャシオー。

キャシオー「こいつは俺の旗手だ!俺の右手だ(イアーゴーの身体を揺する)!で、これが左手(腕を広げたりヒラヒラ指を動かしたり等ちょける)。もう酔っちゃいない、ちゃんと立てるし話もできる。」

 

「俺が酔っ払っていると思うなよ」と何度も強調し、千鳥足で退場。去り際に、「邪魔だ!」と寝転がる人を蹴る等。

 

モンターノー「城壁にあがろう、みんな、見張りにつくぞ。」

 

酔った副官を見送ったイアーゴーは、階段を下り、上手側のモンターノーと話す。キャシオーの酒の弱さは将軍にお知らせした方が良い、とモンターノーが話す中、舞台奥から「助けてくれ!」との叫び声があがる。

 

キャシオーがロダリーゴーを罵倒しながら追っている。争いを止めようとしたモンターノーだが、酔っているキャシオーは止まらない。終にはモンターノーと戦い出す。

その様子を見ながら、イアーゴーは喧騒に紛れて笑う。下手側に滑るように歩きながら、顔を上げ、堪えきれぬ笑い声をあげる。真っ黒なのに純粋な笑い声。

 

ロダリーゴーに「暴動だと叫んでこい」と行かせ、イアーゴーは大袈裟に騒ぐ。企み通り鐘が鳴りだし騒ぎが大きくなる中、「誰が鐘を鳴らしやがった畜生め!街中が起きちまうぞ、やめなさい副官、永遠の恥辱となりますよ!」、イアーゴーが叫ぶ。

 

段上にオセロー登場。

 

イアーゴー「副官、モンターノー殿!お二人とも!場所柄もわきまえず、義務もお忘れですか!やめなさい!将軍がお話だ!やめろと言うに!!」

 

モンターノーはキャシオーによって右腕を斬りつけられる。

何事だとオセローに問われたイアーゴー。「わかりません。突然、剣を抜いて、互いの胸に突き付けあい、流血の喧嘩です」

 

イアーゴー「自分がモンターノーと話をしておりますと、助けてと叫びながら男がやってきて、キャシオーが抜き身を振りかざしてそいつに飛びかかりました。自分は叫んでいた男を追いました。戻ってみますと、その短い間に、二人は鼻を突き合わせての大喧嘩。将軍ご自身が引き分けたのです。ですが、人間は人間、優れた者でも我を忘れる。きっとキャシオーは、逃げたやつからとんでもない侮辱を受け、堪忍袋の緒が切れたのです。」

オセロー「わかるぞ、キャシオーの罪を軽くしたいのだろう。キャシオー、お前を愛してはいるが、俺の部下にはしておけぬ。」

 

デズデモーナが怯えた顔で起き出てくる。オセローは、大丈夫だと彼女を諭す。モンターノーの怪我は自分が手当てするとし、またイアーゴーには街を静めることを命じた。

 

舞台にはイアーゴーとキャシオーのみが残される。

  

キャシオーが崩れ落ちて嘆く。跪きオセローらを見送っていたイアーゴーが、階段を駆け下り、彼に寄り添う。

名声を失ったと叫ぶ彼に、「将軍の奥様が今や将軍です。副官と将軍のあいだの外れた関節を、奥様に添え木(キャシオーの手を両手で包む)してもらうのです」と慰め、助言する。

 

納得したキャシオーはイアーゴーを抱きしめ、感謝する。階段を上り退場する背を見送ったあと、跪いた状態から客席へ振り返り、あぐらをかく。イアーゴーの独白。

 

「さあて。俺が悪党を演じてるなんて誰に言える?女は熱心にムーアに訴える。そのとき、俺がやつの耳に毒を注ぎ込む。そうやって訴えるのは情欲のせいだと。女の善意を網にして、全員一網打尽にしてやる!」

 

下手へ退場。

 

 

 

 

 

鳥のさえずり。ここで篝火も消え、白い照明。

 

デズデモーナとエミーリアが階段を下りてくる。キャシオーに語りかける。

 

デズデモーナ「大丈夫よ、キャシオー。あなたのためにできるかぎりのことをしますからね。」

エミーリア「私の夫もわがことのように嘆いていますので。」

デズデモーナ「まあ、優しい人ね。」

 

デズデモーナは、オセローへの説得を固く約束する。

 

 

オセローとイアーゴーが花道から近付いてくる。

(振り向き何か話しかけるオセロー に、イアーゴー、「かしこまりました」。)

 

キャシオーは今はオセローに合わせる顔がないと言い、退場する。その姿を見つけたイアーゴーが、こっそり右口角を上げ、すぐに直す。

 

イアーゴー「おっと、まずいな。」

オセロー「何だって?」

イアーゴー「何でもありません、閣下。」

オセロー「今、妻と別れたのはキャシオーだったのでは?」

イアーゴー「とんでもない、違います!」

オセロー「あいつだったと思うが?」

 

何も知らず笑うオセローが、再び背を向け歩き出す。また口元を緩めるイアーゴー。

 

 

デズデモーナはオセローに駆け寄り、キャシオーを呼び戻すよう頼み込む。二人は階段を登り、中腹に腰掛ける。イアーゴーは下手、エミーリアは上手に立つ。

 

オセロー「今は駄目だ」

デズデモーナ「でも、すぐでしょ?三日とあけちゃ嫌よ。いつ来させるの?あなたが頼んだことで、私が嫌がったり渋ったりしたことがあったかしら?」

 

オセローが自分に求愛したときに付き添ってくれたのはキャシオーだ、と訴えるデズデモーナ。ここでイアーゴーはひとり、ん?と訝しげな顔をする。そして、何か閃いたような悪い顔。

 

オセロー「わかった、いつでも来させるがいい」

デズデモーナ「あら、こんなのお願いじゃないわ」

 

デズデモーナは最後の一段をぽんと飛び降り、無邪気な声色と表情。あなたのためになることだから言っているのだと。「しばらく一人にしてくれ」というオセローに、「駄目!……とは言わないわ。思いのままに。私はあなたに従います」と、デズデモーナはエミーリアを呼び寄せ、共に階段から退場。

 

 

イアーゴーが問う。「キャシオーは、閣下が求婚なさったとき、その愛を知っていたのですか?あいつが奥様を知っていたとは思わなかった」

 

肯定するオセロー。顔を曇らせてみせるイアーゴー。

 

オセロー「何を考えている?」

イアーゴー「考える、ですか?」

オセロー「何をオウム返しに!さっきキャシオーが妻のもとを去ったときも、お前は“まずい”と言った。考えを聞かせてくれ。」

イアーゴー「キャシオーのことは、誓ってもいいですが、正直者だと、…思います。」

オセロー「俺もそう思う。」

イアーゴー「人は見かけどおりであるべきです。そうでないなら、見かけと違ってほしいものです。」

オセロー「言ってくれ。思っていることを、思っているとおりに。最悪の考えを、最悪の言葉で!」

  

イアーゴーが階段を駆け上がり、オセローの前で跪く。「奴隷でも免れていることをやる義務はありません。考えを話す?それが下劣でまちがっていたとしたら?」

オセロー「どうあっても考えを言わせるぞ!」

イアーゴー「無理です。たとえこの心があなたの手の中にあっても。まして、この胸にあるあいだは決して」

オセロー「は!は!?」

イアーゴー「ああ…」 

 

オセローの圧におののき、よろけながら階段を後ずさるイアーゴー。(勢い余って数段目から派手に落ちる公演があった…)

 

イアーゴー「嫉妬にお気をつけください、閣下。それは緑の目をした怪物で、己が喰らう餌食を嘲るのです。神よ、我らが魂を嫉妬よりお守りください!」

 

手を組んで祈るイアーゴー。(指を交互に組むのでなく、手を繋ぐような形)

 

オセロー「俺は疑う前に確かめる。」

イアーゴー「よかった。それを聞いて、率直に打ち明けた方がよいと納得できました。(段を駆け上がりオセローの側へ)ですから、忠義の印としてお聞きください。

奥様にお気をつけください。キャシオーといるところをよく見るのです。自分にはヴェニスのお国柄というものがわかっています。ヴェニス女は、不倫をして神様がご覧になろうと、夫には隠します。良心があるからしないのではない、良心があるからわからないようにするのです。」

オセロー「…そうなのか?」

  

階段を下る足を止め、オセローの顔色が変わる。そのあと、気に障ったかと上司を窺うイアーゴーに対し、オセローは動揺を隠しきれない。「他にも何か気付いたら教えてくれ」と告げ、「一人にしてくれ」とイアーゴーを上手へ退場させる。

 

酷く心を乱したオセローに、すぐに走って戻ってきたイアーゴーが釘をさす。

 

イアーゴー「これ以上詮索なさいませんように。時にお任せなさい。しばらくはキャシオーをわざと遠ざけ、その意図を探るのです。奥様がやつの復職を、執拗にお求めにならないかどうか。それでいろいろわかりましょう。改めて、お暇乞いを。」

 

 

 

取り乱すオセローのもとへ、デズデモーナとエミーリアが笑い合いながら、階段から登場。

 

額が痛むのだというオセローへデズデモーナはハンカチを差し出すが、振り払われてしまう。階段中腹でハラリと落ちたハンカチ。二人は気付かず、エミーリアのみが段上から様子を窺っている。

 

二人が退場すると、エミーリアはそのハンカチを拾う。イアーゴーにしつこく盗んで来いと頼まれた品。用途を知らぬまま、胸元にしまう。

 

 

 

イアーゴー、上手から走って登場。

 

エミーリアがハンカチを見せつけると、「いい子だ、よこせ」と引ったくろうとする。交わし、ヒラヒラ無邪気にもったいぶるエミーリア。微笑みを返すイアーゴー。

大階段を数段あがったところで、イアーゴーがエミーリアの手首を掴む。一段差で腰掛ける二人。サラッとハンカチを奪って、妻の肩を抱くイアーゴー。

 

何に使うのか訊くエミーリアを煙に巻くようにキスをする。顎に手を添え、上から顔を寄せ、左頬へ。カーテンのような横髪。軽いリップ音。

ハンカチの用途は勿論語らず、「行け、帰れ」とぶっきらぼうにエミーリアを退場させる。嬉しそうに笑い、去るエミーリア。

 

 

 

ハンカチをキャシオーの宿舎に落とし、やつに見つけさせよう、とイアーゴーの独白。ムーアには俺の毒が効き始めている、と悪どく口角を上げる。

 

 

 

「は!俺を裏切る!?」、錯乱したオセローが登場。

イアーゴーはハンカチをポケットに押し込みながら、段をあがり駆け寄る。

 

オセロー「俺を拷問にかけおって!騙されていた方がましだった!さらば、オセローの務めは終わった!」

イアーゴー「そんな、まさか。閣下?」

 

オセローが叫び、踏み面でイアーゴーの胸倉に掴みかかる。「悪党め、妻が淫売だと証明しろ、さもなければ犬に生まれた方がよかったと思わせてやる!」

 

「ああ、神よ!天よ、お赦しを!」、イアーゴーがオセローを振りほどく。同時に倒れこむ二人。息を乱しながらも、素早く身体を起こすイアーゴー。オセローは涙声で笑い、階段を転げ落ちていく。

 

イアーゴー「それでも男ですか!お別れします、もうお仕えできない!ああ愚かだ、正直一途でご奉公すりゃ、悪党呼ばわりだ!真っ正直にやっていては首が絞まる!教えていただきありがとうございました。これからは誰も愛さないことにします!」

 

吐き捨て、ふらふらと階段を登っていく背に、オセローが声をかける。

  

オセロー「待て!おまえは正直だと思う。」

イアーゴー「賢くあるべきでした。正直じゃ馬鹿を見て、がんばったところで意味がない!」

オセロー「証拠が欲しい。はっきりさせたいのだ。」

 

イアーゴーの肩を掴むオセロー。

  

イアーゴー「二人が一つ枕で寝てるところを見ようなんてことは、まず無理です。たとえ二人が山羊のように好色で、猿のように淫乱で、盛りのついた狼のようにやりたがっていて、酔っ払った馬鹿のようにわけがわからなくなっていても、現場を押さえるのは不可能です。」

 

イアーゴーはここで、状況証拠を掴めと提案する。そして、キャシオーと一緒に寝たときの作り話を始める。「やつは寝ぼけて自分の手を握り、可愛い人と言い、キスをし、君をムーアに与えた運命は呪われろと叫んだ」

 

「おぞましい!」と叫ぶオセロー。もう一押しというように、イアーゴーは、キャシオーが例のハンカチで髭を拭いているのを見たと話す。

 

 

オセロー「あの野郎に命が何万とあればいいのに!一度殺しただけでは復讐に足りない。血だ、血だ、血だ!(この辺りから、背景の満月が赤く染まり始める。ついには真っ赤に)」

 

 

膝をつくオセローの横で、イアーゴーも跪き、祈る。

オセローは、「頭も手も足もオセローに捧げることを誓います」、そのイアーゴーの言葉に感謝を述べ、キャシオーを殺せと命じる。

 

オセロー「一緒に来い。俺は奥へ入って、あの美しい悪魔を即座に殺す手段を考える。これからは、おまえが俺の副官だ。」

 

噛みしめるような間が空き、

 

イアーゴー「永久にお仕え致します。」

  

 

ここでイアーゴーは、目をギラつかせてにやりと笑う。勿論オセローは気付かない。

 

段を登っていく二人。肩を組み、ふらつくオセローを支えるイアーゴー。本物の友情があるかのように、身を寄せる。

 

階段の向こうへ退場する背に、幕がおりる。